「こんなのあるらしいよ」
妹からLINEが来たのは日曜日の夜だった。市内の伊勢丹に、ブライスショップが期間限定でやってくるというのだ。ブライス好きのお友達が教えてくれたとのことだ。
数年前にも伊勢丹でブライスショップをやっていて、たまたま立ち寄ったことがある。あれは何年前だっただろうか。その時は、もう売っているものも残り少なくて何も買わずに帰ってきたけれど、雰囲気だけでも楽しかったのを覚えている。
今回のブライスショップはどんな内容なのだろう。ここ数年、ブライスは人気が出てしまって、事前予約しないと購入できなくなってしまった。メルカリやヤフオクでもすごく高い金額で取引されている。それもあって、「ブライスはもういらない。うちにいるアシュレットとパンカホリックピープルの2人でじゅうぶんだ」とずっと思ってきた。けれど、最近、「何か別のブライスが手に入ったらいいなぁ・・・」とぼんやり思いながら、メルカリやヤフオクを覗いていたところであった。これはたまたまやってきた嬉しいチャンスである。新品のブライスが定価で買えるのだ。
どのブライスを買う?
HPを開いたら、11種類のブライスの写真が飛び込んできた。買うとしたらどれにしようか。どれも近年に発売されたブライスで、すべて顔も名前も知っている。
まず、前髪のある子は避けた方がよい。前髪があると一見すごくかわいいのだが、だまされてはいけない。前髪は、左右への広がり方をうまく調整しなければならず、そろえるのが非常に難しいのである。これまで何度パンカホリックピープルの前髪をとかし、はさみで切りそろえてきたことか。とかしても切っても、しばらくするとまた不揃いになる。それがブライスの前髪なのである。もうこれ以上ブライスの前髪に悩まされるのはごめんだ。
また、定価が2万円を軽く超えるものもさすがに予算オーバーである。
こうしたことを考慮していくと、オデットレイクオブティアーズかロンギングフォーラブの2人に絞られる。ロンギングフォーラブは、今持っているアシュレットと雰囲気が似ている気がしないでもないので、オデットレイクオブティアーズにしてみよう。買うならオデットだ。色白でセンター分けの明るい金髪ロングヘア。今持っている二人とは全く違うタイプである。
日程の確保(なぜ平日?)
買うブライスは決めた。次なる問題は日程の確保である。
ブライスショップは21日(水)から27日(火)までやっている。オープンの21日(水)は、9:45から伊勢丹の正面玄関前で整理券を配布するという。どうしてオープンの日が水曜日なのだろう。これは困る。完全な平日ではないか。確かに、休日にオープンしてしまうと、県内外から大勢のブライス好きが押し寄せて、とんでもなく混雑してしまうかもしれないという心配もある。だから平日をオープン初日にしたのだろうか。
さらに、気になるのは整理券を配るということだ。平日にもかかわらず、オープン直後にお客さんが殺到する事態を、伊勢丹は少なからず想定しているということである。しかし、このあたりにそんなにブライス好きの人がいるだろうか・・・
いろいろ考えた挙句、私は水曜日の午前に有給休暇を使って仕事を休むことにした。仕事が終わってから駆け付けて、売り切れていては元も子もない。ちょうど職場が忙しい時期で、私の担当業務もかなりピンチな状況なのだが、ブライスだって私の人生の一部なのだ。
いよいよお迎え当日
いよいよオープンの日がやってきた。万代シティのいつもの駐車場に車を停めて、伊勢丹へ向かう。9:45分近くになって正面玄関前に行ってみたら、列ができていた。私の整理券は12番である。
ブライスショップのオープン初日、しかも平日に、朝から列を作って並ぶ人たちとは、一体どういう人たちなのだろうか。
来る前は全く想像がつかなかったが、さりげなく観察してみると、明らかに、勤め人ではない、「マダム」といった感じの人が多い気がする。マダムに連れてこられたご主人であろう男性の方もちらほら見える。ブライス好きの人たちは確かに存在するんだ、という現実を改めてかみしめ、嬉しくなった。その後も徐々に人が増えて、ざっと30人くらいになった。
落ち着いてしっかりした感じの係員の方(男性)による説明が始まった。
「本日は、ブライスショップにご来店いただき誠にありがとうございます。このあと、9:55になりましたら皆様を6階の会場にご案内します。ショップへは、3名ずつご入場いただくことになりますので、会場前で改めてご案内します。」
3名ずつ・・・ということは、私の前に11人いるから、その人たちがオデットを買って売り切れてしまうかもしれない。どのくらいの在庫が用意されているのか全くわからないけれど、こんなことならもっと早く来るんだった・・・もし売り切れたら、第2候補はどれにしようか、第3候補は・・・・などと考えているうちに、時間になった。
9:55分、伊勢丹はまだ開店前である。
先ほどの落ち着いた係員の方に連れられて、私たちは一列に並び、ぞろぞろとお店の中に入っていく。開店前の伊勢丹へ堂々と入れるなんて、なかなかない機会である。何とも愉快だ。
ブライスに関係なくただ普通に伊勢丹の開店を待っていたお客さんたちが、私たちを変な目で見ている。彼らにしてみれば、さぞかし異様な光景に映ったことだろう。
エレベーターを6階まで上っていく。もうすぐブライスに会える。
いよいよ会場に着いた。ぞろぞろと歩いてきて足を止めた私たちは、「うわぁ」というような歓喜の声を上げた。そこで私たちを待ち受けていたのは、なんとも眩しくて尊い光景であった。新品の箱入りブライスがずらりと並んでいる。思えば、私がこれまでに買ったブライスはすべてネット販売でうちに配達されてきたものであった。新品のブライスが2つ以上並んでいる光景を見るのだって、初めてなのだ。こんなにたくさんブライスが並んでいるなんて・・・なんてかわいいんだろう。私の前に並んでいた黒服のマダムと、順番が来るまでお話することができた。彼女は、ダンディディアレストが売っていたらほしかったそうだが、今回はなかったので少し残念がっていた。
さて、いよいよショップオープンの時間となった。まず、先頭のお客さんが案内された。ソバージュヘアのおしゃれなマダムをはじめとした3人である。
一番に並んでいたのだから、さぞかし気合の入ったブライスファンたちなのだろう。そんな人たちは一体どのブライスを選ぶのだろうか・・・と思って見ていたら、3人とも迷うことなく、入り口の一番近くに積まれているレディ・パナシアを手に取った。なるほど。そう来たか。落ち着いて考えてみれば、さもありなんといったところだ。レディ・パナシアは本当に美しい。これまで発売されたブライスの中でもトップクラスの美しさだ。コロナ禍で私たちを治療する、万能薬という意味を持っている。私は勝手に「薬草の女神」だと思っている。確か限定商品だったはずだ。それもあって、金額は28,490円となっている。これは高い。また、私のようにリアルクローズを着せて楽しみたい人にとっては、少し扱いが難しいかもしれない。緑色のヘアに似合うリアルクローズが何なのか、まったく思い浮かばない。
ところで、オデットの売れ行きはどうだろう。なくなってしまわないだろうか。オデットは、レディ・パナシアの近くにあった。つまり、入ってすぐに目につく場所にあるのだ。オデットはとても美人だからみんなが思わず立ち止まって買ってしまうのではないか・・・あまり立ち止まらずに通り過ぎてほしい・・・などと思いながらお客さんの行方を見ていた。ちなみにドールはどれも5箱ずつ並んでいた。(ジュニームニーキューティーだけは、10箱くらいあったようだ。)ここに出ているのが全部で、在庫はないそうだ。
幸いにも、お客さんたちの好みはそれぞれ分かれており、みなさんいろいろなブライスを選んでいた。こうして、私は無事にオデットを手にすることができた。
オデットは確保したものの、ほかのブライスもじっくり見てみたい。しかし、並んでいる人たちもいるのだからゆっくり居座るわけにもいかない。店員さんたちも、なるべく密にならないように気を配りながら案内をしているのだ。心残りはあったが、仕方なくレジに並ぶことにした。
商品とは別に、ショーケースに歴代のブライスが展示されている。だから、私たちはレジに並んでいる間もそれを見ながら楽しむことができるのだ。なんて素晴らしいサービスだろう。先ほどの黒服マダムとまたお話することができた。昔のブライスは昔の顔をしている。金額も今より安くて、1万円以内で買うことができた。いつの時代のブライスも、かわいいということで意見が一致した。展示の中には、私の持っているパンカホリックピープルもいる。よく考えてみると、パンカホリックピープルを買ってからかれこれ10年以上が経過している。またブライスを買う日が来るとは思っていなかった。ちなみに黒服マダムは、前回(2019年?)の伊勢丹ブライスショップ以来の購入とのことだ。彼女が今回選んだのは、ソングオブロンドンメアリーだった。この子はぱっちりした目をしていて、今までのブライスとはまた一味違った雰囲気を持っている。
支払いをした後、改めて展示を見てみたら、なんとノスタルジックポップがいた。私が個人的に歴代で一番かわいいと思っているブライスである。初めて生で見ることできて、その雰囲気に圧倒されてしまった。黒髪で、ちょっとふくれた表情をしている。今となっては、高額取引でしか手に入らない。今後、同じような商品が出てくるのを待つことにする。
家に帰ってきて、オデットを本棚の上に置いた。ぬいぐるみのジジを置く場所がなくなったので、ジジはオデットの箱に上に乗ってもらうことにした。今までうちにいた2人のブライスは黒と茶色の髪色だから、日本人に似合いそうな服を着せていたけれど、オデットには、北欧とか東欧の服が似合いそうだ。新たなジャンルの服作りにもチャレンジしていこう。ただし、しばらくは箱入り娘のままで飾っておくことにする。
午前のほんの数時間だったけれど、朝からわくわくしたり、ほっこりしたり、暖かく幸せなひと時を過ごすことができた。午後からは仕事だ。現実がやってくる。でも、この先オデットを見るたびに今日のこの気持ちを思い出すことだろう。
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